AI外観検査を活用した検査自動化とは

外観検査の事例

1. 外観検査とは

外観検査とは、製品や原材料の品質を確保するために外観(見た目、外面)の確認を行う検査業務のことです。製造業における外観検査では、製造工程中に発生した製品・部品の汚れや異物、傷、変形などの欠陥を発見し、不良品を排除します。

最も基本的な外観検査は、人の目による目視検査です。また、現場によっては検査装置による外観検査の自動化も進められています。

2. AI外観検査とは

AI外観検査とは、ディープラーニング(深層学習)の技術を活⽤した画像検査の⼿法です。近年では、AI技術の発展に伴い、製造業の外観検査においてもAIの活用事例が増えてきています。
AIによる外観検査は、目視よりも正確・高速な検査を実現できる点や、従来の検査装置よりも設定が容易であったり高い検査精度を期待できたりする点など、さまざまな優位性があり、次世代の外観検査手法と言えます。

主な仕組みは、AI(人工知能)に良品・不良品の画像を与えることで、人間と同じような良否判定ができるようになります。
AI外観検査の仕組み

3. 従来の外観検査の課題と、AI外観検査のメリット

ここでは、目視や検査装置を用いて実施される外観検査の課題や、それに対してAI外観検査に期待できる点について解説します。

(1-1) 目視検査の概要と課題

目視検査は最も基本的な外観検査手法です。目視検査では、目視にて限度見本と製品・部品を比較して良品・不良品を判断します。微細な部品の検査精度を高めるために、拡大鏡や顕微鏡を用いるケースもあります。

目視検査は、検査設備が不要であり導入が容易であるというメリットがあります。一方で、以下のような課題もあります。

  • 検査のための人件費がかかる
  • 人手不足に伴い、目視検査を行う人員の確保が難しい
  • 検査の品質が検査員のスキルに依存する
  • 判定基準が人に依存するため、ばらつきが生じる
  • 特に詳細な確認が必要である場合は、検査に時間がかかる

(1-2) 目視検査の課題に対するAI外観検査のメリット

コスト削減ができる、人材不足を解決できる、検査能力を高めることができる

AI外観検査システムは、撮影・判定を瞬時に行うことができます。また、機械は「疲れない」ため、24時間稼働させることも可能です。また、台数を増設すれば2倍・3倍と検査能力を高めることもできます。結果として、人材不足や人材育成の課題を解決することができます。

検査品質を高めることができる

人による目視検査は、検査員の能力や疲れによって精度を保つことが難しいですが、AI外観検査は検査の精度を高く保つことができます。そのため、検査品質が高まり、クレームの低減にもつながります。

(2-1) 検査装置による検査の概要と課題

目視検査の課題を解決するために、検査装置を導入して検査を自動化するケースもあります。

検査装置では、ルールベースで不良品の判定を行います。「ルールベース」とは、あらかじめ判定基準を検査装置に設定し、そのルールに合致するかどうかで判定を行う方法です。ルールとして設定できる項目としては、異常箇所の長さ、面積、形状、色などが挙げられます。

ルールベースで判断する検査装置は、外観検査の自動化を実現する1つの有効な手段ですが、一方で以下のような課題もあります。

  • 明確にルールを定める必要があり、検査対象、不良の形状や色にバリエーションがある場合はルール化できず検査できない
  • 異常の種類が多い場合は、設定が複雑化する。また、設定が複雑化するほど、過検出(過剰検出)が増える
  • ルールの設定が属人化し、ノウハウが失われた場合に対応が難しい

(2-2) 検査装置の課題に対するAI外観検査のメリット

明確なルールの定義をする必要がない、複雑な条件にも対応可能

外観検査AIを構築する最も一般的な手法は、良品・不良品に仕分けした製品や部品の画像データをAIに読み込ませ、学習させます。また、良品のみのデータで学習し、「良品と異なる特徴を持つものを不良品とする」といった手法もあります。分類基準を学習したAIは、カメラで撮影した製品・部品を自動で分類することができます。
AIの場合、入力されたデータに含まれる「特徴」を、AIが自ら学習して良否判定をできるようになるため、明確に良品・不良品を定義する必要がありません。また、AIは面積や色などから複合的に判断できるため、従来複雑な設定が必要だったケースにも対応できます。

判断基準はAIが学習し、蓄積することも可能

AI外観検査が良否判定の基準を学習するため、検査担当者の変更・異動・退職の影響を受けにくくなります。また、検査データや検査事例を蓄積し、AIに再学習(追加学習)させることで、より精度高く検査ができるようにすることも可能です。

4. 外観検査AI導入を成功させるポイント

ここでは、外観検査の自動化のためにAIを導入する際の3つの成功ポイントについて解説します。

(1) 撮影環境(照明・カメラ)の設置

AI外観検査では、AI外観検査では、対象となる製品・部品を撮影し、そのデータをAIに与えて学習させます。撮影の際に重要な点は「異常箇所が画像としてきちんと写る」ことです。いくつかの検討すべきポイントを挙げます。

撮影は1方向からで十分か、複数の方向からの撮影が必要か

最もシンプルな例として、検査対象が平面の場合や立体物の1面のみの場合は、撮影は1方向からのみで十分です。
一方で、検査対象が立体の場合や複雑な形状をしている場合、「カメラの台数を増やして複数方向から同時に撮影する」または「検査対象を回転させて、検査する面をカメラに向ける」必要があります。似た事例として、検査対象が1台のカメラでは検査しきれないほど大きい場合も、複数台のカメラを用いることがあります。例えばアラヤが提供する「InspectAI」の場合、複数台のカメラで同時に撮影して、どこか1箇所でも不良が見つかればその製品を不良品と判定することができます。また、検査品を回転させる搬送機なども提案が可能です。

一般的な撮影方法ではうまく撮影できないケース

一般的な外観検査の撮影には、カメラ(カラーまたはモノクロ)と照明を用いますが、単純な撮影方法ではうまく撮影できないケースがあります。
例えば、金属やプラスチックの場合、表面に光沢があるため、照明が反射して異常箇所がうまく写らない(白飛びしてしまう)ことがあります。こうした場合には、例えばキーエンス社製の高性能な照明を使用することで解決することもできます。またアラヤには「光の専門家」がいるため、反射を抑えて撮影するさまざまな方法を提案することができます。
他にも、近赤外線光で表面を透過させたり、検査対象表面の凹凸を際立たせたりするような撮影にも対応可能です。

導入済みの機器をそのまま使う

すでに導入済みの検査機があり精度に課題をお持ちの場合、検査機のカメラ・照明は引き続き使用し、良否判定のみをAIに置き換えることも検討できます。この場合、カメラ・照明のハードウェア部分は新規導入する必要がないため、費用を抑えられます。

(2) AI外観検査モデルの構築

AI外観検査には、運用で利用する前に事前に「学習」という手順が必要となります。従来、個別開発をするには、AIの専門家がAIモデルを組み上げ学習させるために、非常に長い準備期間が必要でした。
近年は、AI外観検査を導入・利用しやすいパッケージソフトが登場しています。そうしたAI外観検査ソフトの選び方にはいくつかのポイントがあります。

検査に合ったタイプのAI外観検査モデルが使えるか

一言で「AI外観検査」と言ってもさまざまな種類があり、それぞれに特徴や検査の内容に対する向き・不向きがあります。代表的なAIモデルを紹介します。

  • 良品学習モデル:不良品の画像を必要とせず、良品の画像のみで学習が可能なモデル。不良品が発生しにくい製品の検査には最適。ただし、良品の見た目のバリエーションが大きいものには適用できないことがある。
  • セグメンテーションモデル:細かい欠陥や異物を検出するのが得意なモデル。
  • 物体検知モデル:大きめの欠陥を高速に検出できる、バランスの取れたモデル。
  • 分類モデル:製品全体の不良(歪み、色不良など)に対応できるモデル。

アラヤの「InspectAI」では上記すべてのモデルに対応しているため、幅広い検査に対応することができます。

不良品がどのくらい準備できるか

AI外観検査モデルを構築するには、事前に大量の良品と不良品を用意するのが一般的です。AI外観検査の検査精度を高めるには、できるだけ多くのパターンの不良品を学習する必要があります。しかし、不良品の発生頻度は低いことが多く、不良品を大量に用意するには多大な時間と労力が必要となります。
アラヤの「InspectAI」は、前述の「良品学習モデル」を使用することで、不良品無しでも検査が可能です。また、「良品学習モデル」が適用できないケースでも、一般的なAI外観検査の学習に必要な不良品画像数と比べ10分の1程度で高い精度の検査を実現できる仕組みがあります。不良品が少ないためにAI外観検査の導入を断念された方にもお薦めです。

(3) AI外観検査とコンベアや排除装置の連携

AI外観検査が不良品を検出した際に、自動でラインを停止させたり、排除装置(選別機)によって異常レーンへ排出したりすることができると、検査の自動化がより進みます。これらを実現するためには、PLC(製造ラインの機器を自動的に制御する装置)と連携する必要があります。
アラヤの「InspectAI」はPLC連携が標準で対応可能になっています。また、新たな排除装置(選別機)のご提案も可能です。

5. AI外観検査で対応できる検査の例

アラヤが提供するAI外観検査ソフト「InspectAI」で対応できる検査対象・検査項目には、以下のようなものがあります。

食品

InspectAIは、食品に混入する毛髪まで検出可能な、高性能AIソフトです。さらに毛髪以外にも、様々な食品の外観検査を同時に行うことが可能です。

  • 異物混入(プラスチック片など)
  • 欠け、割れ、剥がれ、形状不良
  • 焦げ、具材の過不足、具材のばらつき
  • 容器・パッケージの不良 など

AI外観検査の検査例_食品

金属部品

傷、打痕、ひび、折れ、塗装(色むら)、溶接

フィルム・シート

傷、打痕、汚れ

パッケージ

傷、凹み、汚れ、ラベル有無、ラベル位置

電子部品・基板

はんだ付け
AI外観検査の検査例_金属フィルムなど

6. AI外観検査の導入事例

AI外観検査がどういった目的や用途で導入されているのかを具体的にイメージいただくため、「InspectAI」の導入事例・検査事例の一部を紹介します。

【食品】カップ麺
検査対象物 カップ麺
検出する不良 異物混入(毛髪、プラスチック片)
課題 食の安全のために、異物混入がないかの検査が必要だが、ルールベース検査機での検出は難しいため、人が目視により検査を行っていた。
検査員の人件費や人材確保に課題を感じていた。
AI外観検査導入により 高い精度で異物だけを検出できるようになり、検査の自動化を実現。

【食品】弁当
検査対象物 弁当
検出する不良 異物混入(毛髪、プラスチック片)、欠品検査
課題 人が目視により検査を行っていたが、一度に見られる検査項目・量に限界があり、不良品がなかなか減らせなかった。
AI外観検査導入により すべての検査項目を同時に全数検査することで、不良品を削減。

【金属部品】ベアリング
検査対象物 金属ベアリング
検出する不良 1mm以下の微細な打痕、傷
課題 金属面の微細な不良を見るために目視検査を行っていたが、時間を要していた。欠陥が微細なので、精神的・身体的負担が大きく、ヒューマンエラーが発生しやすかった。
AI外観検査導入により 不良をわずか0.2秒程度で検出。1つのAIモデルで、見た目の違う表裏両面の検査にも対応。

【包装】ダンボール・ラベル
検査対象物 ダンボール(ラベル貼付有り)
検出する不良 キズ、汚れ、ラベル位置、ラベル内容
課題 ダンボールの出荷前の検査を自動化したいが、従来の検査機では対応できなかった。
AI外観検査導入により 複数台のカメラを用いて、ダンボールの複数面とラベルの内容を同時に検査し、高速な検査自動化を実現。

その他にもさまざまな導入事例・検査事例があります。詳細についてはお問い合わせください。

7. AI外観検査導入のためのステップ

アラヤの「InspectAI」を導入するためのステップは次の5つです。導入の流れは、一般的なAI外観検査とほとんど同じです。アラヤに相談いただいた場合をイメージできるようにお伝えしていきます。

(1) ヒアリング

まずは現状の検査の詳細についてヒアリングいたします。ヒアリングする内容は下記の通りです。

  • 検査対象物
  • 検査項目
  • 目標数値(精度・速度など)
  • 概算の予算
  • 導入時期

より具体的に検討するため、次のような写真も共有ください。

  • 検査対象物の写真
  • 代表的なNG品が分かる写真
  • 工場の現場の写真

上記のような判断材料が多いほど、実現可能性の検討がスムーズに進みやすくなります。

(2) 初期検討

要件が整理できたら、当社にてAI外観検査の実現可能性を判断するための「初期検討」を実施します。
お客様に数枚ずつ良品・不良品の画像データ(またはワーク)を用意していただく必要があります。支給いただいた画像にて、不良箇所がどのように写るかを確認し、「InspectAI」で検査ができそうかどうかを判断いたします。

(3) 精度検証

実際にある程度の枚数の画像データを用意し、「InspectAI」でどの程度の精度が出るかの検証を行います。具体的には、次の流れで進めます。

  • お客様側で良品・不良品の現物を準備
  • 当社のラボで撮影
  • 「InspectAI」に学習させて検査実施・精度検証
(4) 最終提案

精度検証の結果をもとに、実ラインに導入するソフトウェアやハードウェアの構成案を提案します。
下記のようにAI以外の部分も併せて提案できる点が、アラヤの強みです。

  • 光学機器(カメラ・照明)
  • 搬送機・排除装置(選別機)
  • AI外観検査を動かすためのPC・ワークステーション

ハードウェアに関しては、機器導入の実績が豊富なパートナー企業と協力して提案します。現行のラインからハードウェアを流用したいのであれば、そのまま使用可能かを検討します。

(5) 導入

お客様の工場現場にソフトウェア・ハードウェアを設置、導入します。
必要なセッティングに関しては、事前に内容を整合させた上で、アラヤが行える部分はすべて実施します。「InspectAI」を活用いただけるよう、全力でサポートします。

8. まとめ

この記事では、従来の外観検査に対してAI外観検査が解決できる課題、導入事例、導入方法について解説しました。
一般的なAI外観検査よりも適用できる対象領域が広く、導入に必要な画像が少なくて済む点が、アラヤの「InspectAI」の強みです。また、専門知識不要で画像データや検査設定を追加できるため、現場担当者のみでの運用もできます。AIシステムだけでなく、検査に必要な機構をトータルで提案することも可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

外観検査,InspectAI

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