ニューロテック(ブレインテック)とは(2):
ニューロテックの活用領域

図6: ブレインテック カオスマップ2021 メディアシークより掲載

3. 企業や各国のニューロテックの状況

現在の市場規模は、4兆円規模(三菱総合研究所※3.1)とされており、これから増大すると見込まれています。また、アメリカ、ヨーロッパを中心に1200以上の企業が存在し、企業に対する投資の総額は2020年には2010年の21倍の投資額にあたる80億ドル(約9000億円程度、Neurotech Investment Digest)まで上がっています。(※3.2)
(※3.1)ブレインテックが切り拓く5兆円の世界市場 第1回 ブレインテックの現状脳神経科学を応用した新事業創出
(※3.2)INVESTMENT DIGEST | Neurotech

ここでは企業における近況と、各国の基礎研究について触れていきます。

3.1 企業における近況

現在、計測技術や刺激技術などのデバイスの開発を中心に多くの企業がニューロテック事業に参入しています。アラヤもニューロテック企業としてBMI事業に参入しています [図6]

図6: ブレインテック カオスマップ2021 メディアシークより掲載
図6: ブレインテック カオスマップ2021 メディアシークより掲載

2019年以降、成功した起業家が創業したNeuralink (創業: 2016年、CEO: イーロン・マスク)Kernel (創業: 2016年、 CEO: ブライアン・ジョンソン)から大きな発表があり注目を集めました。

Neuralinkは、電気自動車のテスラを率いるイーロン・マスクが、1億ドルの自己資金を入れて創業したニューロテック企業です。2021年には、2億ドルの追加投資を受けたニュースがありました。

ワイヤレスの侵襲型の小型電極を開発しており、スマートフォンの操作を行うことを目的にしています。身体に麻痺があるようなヒトがコミュニケーションを行うためのデバイス開発を段階的に進めています。
2020年には、歩行中のブタから脳活動の抽出に成功し、2021年にはサルに脳活動を使ってゲームをプレイさせる動画が公開されました。2022年には、人間を被験者にした臨床研究を進めるディレクターの募集をはじめ、実用化に向けて順調な動きを見せています。

Kernelはオンライン・ペイメント事業を売却し財を成したブライアン・ジョンソンが創業したニューロテック企業です。すでに、自身の投資を含めて1億ドル以上の投資を受けています。
Neuralinkとは対照的に非侵襲型デバイスの開発に注力し、高い性能を達成しています。
すでに、NIRSを用いた脳活動の計測デバイスであるKernel Flowの事業者向けの販売が開始されました(消費者向けは2024年を予定)。
実際にどの程度の精度で脳活動を抽出できるのか注目されています。

他にも、2021年に大幅な投資を受けた神経刺激のデバイス開発を行うHinge Health (調達額: 10億ドル, Series E)埋め込み型の脳刺激装置を開発するAxonics Modulation Technologies (調達額: 6億ドル以上, IPO)など世界中のニューロテック企業の50%以上がアメリカに集まっており、現在ニューロテック開発の中心地になっています。

アジアでは、全体の6%ほどの企業が集まっています。
2021年に80億円以上の投資を受け注目されたNeural Galaxy(北京優脳銀河科技)は、脳疾患の治療法開発を目的とした企業です。
北京とボストンで事業展開しており、起業家の魏可成(Coach Wei)を中心に、ハーバード・メディカル・スクールの劉河生教授、マサチューセッツ工科大学のRobert Desmone教授などと共同創業しました。
さらに、大ヒットモバイルゲーム「原神」(年間売上2000億円以上)を提供するmiHoYo (創業: 2012年、CEO: 李承天)も上海交通大学付属の瑞金医院と臨床応用に向けた研究開発も始めています。

他に消費者向けの市場でも

など、世界各国の企業で新たなデバイス開発が進んでいます。

3.2 各国における基礎研究への投資状況

図7: 各国の基礎研究プロジェクトのまとめ
図7: 各国の基礎研究プロジェクトのまとめ

企業のみならず複数の国や地域でニューロテックについて2010年代前半から基礎研究への投資が進んでおり、いくつかの大規模なプロジェクトが展開されています。

アメリカでは、国立衛生研究所(NIH)が主導するBRAIN Initiativeは、2014年から2026年までに5500億円以上の資金が投入される予定になっています[Ngai, 2022]。ヨーロッパでは、 欧州委員会 (EC)が主導する Human Brain Projectが、2023年までの10年間で1300億円程度の資金を受ける予定です。

また、日本でも、日本医療研究開発機構(AMED)が支援する Brain/MINDS [Okano et al., 2016]プロジェクトを含む複数のプロジェクト、脳とこころの研究推進プログラムが運営されています。他にも、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が推進するムーンショット型研究開発事業(予算総額: 1150億円予定)において「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」などのニューロテックに関わるプロジェクトも一部推進されています。

さらに、オーストラリア(The Australian Brain Alliance)、韓国(Korea Brain Initiative, 2016-2026)、中国(China Brain Proejct, 2016-2030)でもニューロテックに対する取り組みが始まっています。

今後、これらのニューロテックプロジェクトから生まれるシードが注目されています。

4. アラヤの取り組み

アラヤでは独自のニューロテックの研究開発とともに、事業者向けのソリューション提供/解析支援、関係各所との連携(例: 応用脳科学コンソーシアムの協賛会員)などをこれまで幅広く進めてきました。

アラヤでは、大きく以下のサービスを提供しています。

  1. 脳センシングソリューション
    1. Face2Brain-画像ベース脳波推定ソリューション-(※特許出願中)
    2. Brain Performance Indicator -脳波ベースパフォーマンス推定-
  2. BMI開発支援
  3. その他脳データ活用支援
    1. ニューロマーケティング支援
    2. 脳データ(fMRIなど)解析支援・コンサルティング

4.1. 脳センシングソリューション

アラヤでは、脳波を活用して脳の様々な状態(眠気・集中力など)をセンシングするソリューションを提供しています。大きく2つのアプローチを採っています。

  • 画像ベースで、より簡便なセンシングを実現する(Face2Brain)
    自動車ドライバー向けのユースケースなどの、常に脳波計を装着することが難しいケースにおいて、実運用時には顔画像などをもとに脳波計不要で状態推定を行う
  • 脳波ベースで、より深い情報のセンシングを実現する(Brain Performance Indicator)
    脳波を弊社のアルゴリズムで解析することで、一瞬の注意欠如などの脳の状態変化を高い分解能で推定する

4.2. BMI開発支援

アラヤでは、弊社代表取締役 金井良太が内閣府のムーンショット型研究開発事業「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」のプロジェクトマネージャーに任命されるなど、BMI技術の研究開発を推進しています。このプロジェクトでは、他者と脳を介してコミュニケーションする「Internet of Brains (IoB)」の実現に向けた研究を推進しています (https://brains.link/)

また、より簡易的な脳波計によるBMIの研究開発も推進しており、社会実装を目指した取り組みも進めております。

4.3. ニューロマーケティング支援

アラヤでは、消費者の脳データ(脳波・fMRI)を解析することで、商品の購買プロセスや利用プロセスにおける脳活動を理解し、マーケティング・商品開発に活かす取り組みを支援するサービスを提供しております。

4.4. 脳データ(fMRIなど)解析支援

アラヤでは、事業者向けにfMRI画像を用いたヒトの認知の理解に関する研究開発を支援するサービスを提供してきております。
また、fMRIや脳波の計測といった非侵襲型デバイスによるデータ解析だけでなく、侵襲型の埋め込み電極や皮質脳波(ECoG)などの侵襲型デバイスデータの解析も行っています。

現在、デバイス等の進歩の影響で脳から得られるデータは膨大かつ複雑になっており、技術ごとに適した解析環境を整え解析を行うにも膨大な知見が必要になります。そのため、これらの知見をもとに研究機関等向けに、データを自動で解析する環境の提供や、AI・機械学習技術を用いた解析サービスも提供してきました。

アラヤのニューロテックサービス

5. まとめ

この記事では、ニューロテックを支える技術から活用領域(ユースケース)、代表的な企業や国別のプロジェクトなどを示し、最後に弊社の取り組み/提供サービスの概要をご紹介しました。
技術進化とともに、自動車・建設・ヘルスケア・マーケティングなど様々な領域でのニューロテック(ブレインテック)の活用・注目が高まっております。
ニューロテックの最新の動向や、ヒトの脳センシング、BMI(ブレインマシンインターフェース)などにご関心をお持ちでしたら、お気軽にアラヤにお問い合わせ下さい。
(執筆者 :濱田 太陽、出本 哲、笹井 俊太朗、草野 亜弓)