アラヤ チーフリサーチャー Pablo Moralesらの論文が『Nature Communications』に掲載
株式会社アラヤ 研究開発部 Information Theory & Complex Systems チームの Pablo Morales チーフリサーチャー、スペイン・バスク応⽤数学センターの Miguel Aguilera 研究員、英国・サセックス⼤学の Fernando E. Rosas 講師、京都⼤学⼤学院 情報学研究科の島崎秀昭 准教授による論文「Explosive neural networks via higher-order interactions in curved statistical manifolds」(DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-025-61475-w)が、英国の国際科学誌『Nature Communications』に2025年7月24日付でオンライン掲載されます。
曲がったニューラルネットワークで遊ぶ子どもたち。爆発的記憶想起を表現している。(イラスト:Robin Hoshino 氏)
本研究では、統計物理学の理論を応用することで、ネットワークが記憶を呼び出す際に示す「爆発的」とも言える急激な状態変化や、それによる記憶能力の向上を再現します。これは、脳の情報処理メカニズムの根源的な理解や、より高性能な人工知能(AI)の開発に貢献する重要な成果です。
私たちの脳やAIのような情報処理システムでは、多数の神経細胞(ニューロン)が単なる一対一の関係だけでなく、3つ以上の要素が同時に影響し合う複雑な「高次相互作用(Higher-Order Interactions: HOIs)」が重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、この高次相互作用を数理モデルで正確かつシンプルに記述することは、これまで困難でした。
情報幾何学の考え方に基づき、「曲がった統計多様体上の最大エントロピー原理」という新しいアプローチを提案し、パラメータの数を抑えながら高次相互作用を自然に組み込んだモデルを構築しました。
このモデルは、主に以下の特徴を持つことが明らかになりました。
1. 爆発的な相転移とヒステリシス:
ネットワークが外部からの入力に応じて記憶を思い出す際、非常に急激かつ非連続的な状態変化(爆発的相転移)を起こすことが示されました。このダイナミクスは、一度状態が変わると元に戻りにくい「ヒステリシス」という現象を伴い、現実の脳活動に見られる複雑な挙動と類似しています。
2. 記憶容量と検索能力の向上:
連想記憶モデルとして性能を評価するため、「レプリカ手法」を用いて解析した結果、本モデルは従来のネットワークモデルと比較して、より多くの情報を記憶でき(記憶容量の増大)、かつ安定して記憶想起できることが理論的に示されました。この性能向上は、爆発的ダイナミクスが記憶の検索プロセスを強化していることを示唆します。
今回の成果は、脳における情報処理の根幹をなす高次相互作用を、統一的かつシンプルな数理的枠組みで説明する新たな道筋を示すものです。今後、このモデルを発展させることで、脳機能のさらなる解明や、より少ない計算コストで高い性能を発揮する次世代AIの設計につながることが期待されます。
研究者コメント(Pablo A. Morales)
この研究は、複雑系における高次相互作用の探求に、新たな視点をもたらします。一般化された最大エントロピー原理を応用することで、膨大なパラメータを必要とせずに高次相互作用の本質を捉えることが可能になりました。このアプローチで、これまで分析が難しかった爆発的な相転移や多安定性といった系の振る舞いを調査できるようになった点は、重要な進歩だと思います。これらの複雑な挙動が、外部からの調整によるものではなく、記憶の構造そのものから内的に生まれるという結論も非常に示唆に富んでいます。
関連リンク:
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