研究DXとは?求められる背景や現場での支援事例、始め方を解説

コラム 2026.08.24

研究に使える時間を増やしたい、散在するデータやコードを活用したい、と悩む研究室や研究開発部門は少なくありません。限られた人員や時間のなかで研究成果を生み出すには、研究者個人の工夫だけでなく、研究を支える業務や情報の扱い方を見直すことが重要です。

こうした課題への対応として注目されているのが研究DXです。研究DXとは、研究業務の効率化やデータ活用を通じて、研究開発の生産性向上を目指す取り組みです。

本記事では、研究DXの基本的な考え方や求められる背景、実際の事例、始め方を解説します。

研究DXとは、デジタル技術を活用して研究活動を効率化する取り組みのこと

研究DXとは、デジタル技術を活用して研究プロセス全体を改善する取り組みを指します。

目的は、単なるAIや新しいITツールの導入ではなく、実験やデータ管理、解析、情報共有、成果発信などの研究プロセス全体を見直し、研究者が本来の研究活動に集中できる環境をつくることです。

一般的なDXは、組織や事業の仕組みをデジタル技術で変え、価値を高める取り組みです。研究DXは、その考え方を研究活動に当てはめたものといえます。

例えば、保存場所やファイル名のルールをそろえ、解析手順と結果を後から確認できるようにし、チームで再利用できる状態にする取り組みがあります。

研究者が研究の周辺業務に追われず、仮説の検討や実験・検証により多くの時間を使える環境を目指すことが重要です。

なぜ今、研究DXが求められているのか

ここでは、研究DXが必要とされている3つの背景を整理します。

研究DXが求められる背景1:研究時間の確保が課題となっているため

研究DXが求められる大きな理由は、研究者が研究に専念する時間を確保しにくいことです。

科学技術・学術政策研究所の「NISTEP定点調査2025」では、研究時間の確保が継続的な課題として取り上げられています。

「研究時間を確保するための取組」に対する評価は、6段階評価(1:不十分〜6:十分)を指数化したデータで「2.5以上〜3.5未満」にとどまっており、これは「不十分との強い認識」を示しています。2021年調査の2.8からさらに0.3ポイント下落しており、現場の課題感がより強まっている状況です。

(出典)文部科学省 科学技術・学術政策研究所, 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2025), NISTEP REPORT No.209, 2026年4月

実際の現場では、解析環境の構築や定型的な解析作業、データ整理など、研究そのものではなく周辺業務に多くの時間が割かれています。そのため、研究に専念するための業務効率化や研究を支援する体制の整備が求められています。

研究DXが求められる背景2:研究データや研究成果の適切な管理・公開・活用が求められているため

研究DXが求められる背景には、研究データを必要に応じて共有・再利用できる状態にする必要性が高まっていることがあります。

内閣府は、2025年度の新規公募分から「学術論文を主たる成果とする競争的研究費制度」を対象に、学術論文及び根拠データの即時オープンアクセス(誰もが自由にアクセス出来る環境)の実現に向けた基本方針を進めています。 

即時オープンアクセスの対象は、電子ジャーナル等に掲載された査読付き学術論文(著者最終稿を含む)と根拠データです。ここでいう根拠データとは、執筆要領や出版規程等において透明性や再現性確保の観点から公表が求められるデータであり、情報基盤への掲載等を通じて自由に利活用可能となることを目指します。

ただし、すべての研究データを新たに公開するものではありません。成果の公開・共有は、国の安全や個人情報等を考慮し、「オープン・アンド・クローズ戦略」に基づいて適切に実施することが求められています。

参考:内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」の実施にあたっての具体的方策について」(https://www8.cao.go.jp/cstp/hosaku_setsumei.pdf

研究DXが求められる背景3:AI for Scienceによって研究手法そのものが変化しているため

AI for Scienceとは、AIを科学研究の各段階で活用し、研究の進め方そのものを変えていく取り組みです。

一般的な生成AIは、文章作成や要約、情報検索、資料作成など、研究周辺業務を効率化する場面で使われることが多いでしょう。一方、AI for Scienceでは、仮説の生成や実験の設計、シミュレーション、データ解析、知識統合など、研究プロセスの中核にAIを組み込みます

文部科学省は令和8年3月に、AI for Scienceを国家戦略として体系的に推進する基本的な戦略方針を公表しました。同方針では、AIが仮説生成、実験設計、解析、知識統合に関与し、研究の在り方を変えつつあることを示しています。研究力・人材、研究データ、計算資源、人材を一体的に整備する必要性も指摘されています。

参考:「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」(文部科学省)(https://www.mext.go.jp/content/20260403-mxt_jyohoka01-000048752_1.pdf)(2026年8月2日に利用)

AI for Scienceを活用するには、AIに渡すデータの品質や管理方法、解析結果を確認できる環境が欠かせません。つまり、AI for Scienceは単独で進めるものではなく、データ管理や解析環境の整備を含む研究DXの一部といえます。

研究DXでは何が変わる?ResearchDXの実践例をもとに解説

研究DXは、AI for Scienceのような先端技術の活用だけでなく、身近な業務課題を改善し、研究者が研究に集中しやすい状態を整える取り組みでもあります。

アラヤの研究支援サービス「ResearchDX」は、研究者の研究環境を向上させ、科学技術の推進とイノベーションの創出を加速するサービスです。

ここでは、支援事例から研究DXによる変化を紹介します。

事例1:学術データを統合し、情報探索を効率化する

研究に必要な情報をすぐに探せる状態にすることは、研究DXの基本です。

ResearchDXでは、国立研究所からの依頼を受け、散在していた論文データと公開データを統合し、データベース化して検索環境を整備した事例があります。必要な情報へ一元的にアクセスできるようになり、情報探索にかかるコストの削減につながりました。

研究データや公開情報が個別のフォルダ、表計算ファイル、担当者のPCに分かれていると、内容を把握するだけでも時間がかかります。データを集約し、検索しやすい形に整えることで、既存の情報を次の研究に生かしやすくなります。

事例2:解析業務を自動化し、作業時間を削減する

手作業や個人のコードに依存している解析は、自動化と標準化によって負担を減らせる場合があります。

ResearchDXでは、画像解析技術を使ったAI動物行動解析プラットフォームを開発し、手動作業を自動化して実験プロセスの高速化と解析の再現性向上を支援しました。

また、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の神経計算ユニット様向けには、プログラミング不要のカルシウムイメージング解析プラットフォーム「OptiNiSt」を開発しています。これにより、コード作成と検証に数日から数週間かかっていた解析を、定めたパイプラインにより数分から数時間に短縮しました。

定型作業を自動化し、解析手順を共有できると、担当者ごとの差を抑えやすくなります。研究者は繰り返し作業から離れ、結果の解釈や次の仮説の検討に時間を使いやすくなるでしょう。

事例3:解析環境を刷新し、再現性・再利用性のある研究基盤を構築する

研究成果を他の人が試せる形に整えることは、再現性と再利用性を高める上で重要です。

ResearchDXでは、MATLABで構築されていた解析環境をPythonへ移行し、GitHubとGoogle Colabノートブックを活用して、コードと実行環境を共有可能な形に整えた事例があります。特定の端末やローカル環境への依存を抑え、予算や端末環境に左右されにくい解析基盤の構築を支援しました。

例えば、解析に使ったコードや実行手順、必要なデータを適切に管理できれば、担当した学生の卒業後や共同研究先との連携時に手順を確認しやすくなります。

研究DXは、現在取り組んでいる作業を便利にするだけでなく、研究資産を将来へ引き継ぐための基盤づくりでもあります。

事例4:研究成果を分かりやすく発信し、社会還元につなげる

研究成果を適切に伝える仕組みも、研究DXの一領域です。

ResearchDXでは、動画やWebコンテンツ、プレスリリースの制作、イベントの企画・運営を通じたアウトリーチ支援をおこなっています。研究者や企業、行政、一般の方など、相手に応じて伝え方を設計し、複雑な研究内容を非専門家にも理解しやすい形に再構成します。

研究内容を公開・発信しやすくなると、研究の透明性や説明責任の向上につながります。また、社会的な認知や共感を得ることで、研究成果が研究室の外で活用される可能性も広がるでしょう。

研究DXは何から始めればよい?

研究DXは、大規模なシステム導入から始める必要はありません。現場で最も負担になっている業務を見つけ、まずは一つの部署や作業に絞って導入し、効果を確認しながら広げる進め方が現実的です。

ここでは、研究DXの進め方を3つのステップで解説します。

ステップ1:研究DXで目指すことと現状の課題を整理する

まずは、研究DXによって何を実現したいのか、研究室や組織内で認識をそろえましょう。

文部科学省の「研究DXの推進について」では、研究DXを進める際の主な課題として、

  • 研究DXへの理解やメリットが十分に浸透していないこと
  • 研究データの共有・利活用
  • 計算資源やストレージの確保
  • 分野や研究基盤との連携

などが挙げられています。

そのため、例えば次の観点から現状を確認します。

  • 研究DXによって、研究活動のどのような価値を高めたいのか
  • 研究データを共有・再利用する際に、公開範囲やデータ形式、費用面で課題はないか
  • データの保存や解析に必要な計算資源・ストレージを確保できているか
  • 他分野の研究者や研究基盤と連携し、データや手法を活用できる環境があるか

課題を整理したうえで、研究DXの具体的な活用場面を想定し、データの共有・利活用や研究用デジタル基盤の活用につなげることが重要です。

参考:「研究DXの推進について」(文部科学省)(https://www.mext.go.jp/content/20220617-mxt_kiso-000023439_3.pdf)(2026年8月2日に利用)

ステップ2:効果と実現性を踏まえて優先順位を決める

研究DXでは、データ共有・利活用の方法、必要な人手や費用、計算資源・ストレージなどを踏まえて進め方を検討する必要があります。

実務上は、期待できる効果と、導入・運用に必要な負担を比べながら、取り組む順番を決めると進めやすくなります。

まずは、効果が見えやすく、現在の体制でも試しやすい業務から始めましょう。

《研究DXの課題と検討する観点の例》

課題 研究DXで期待できる効果 検討したい点
ファイルの保存先が人によって異なる データを探す時間や引き継ぎの負担を減らせる 保存先や命名ルールを決められるか
定型的なデータ整形を繰り返している 作業時間や入力ミスを減らせる 作業手順を整理し、自動化できるか
解析コードが担当者ごとに異なる 手法を共有・再利用しやすくなる 手順の整理や利用環境の整備が必要か
研究成果や手法が共有されていない 研究成果や知見を活用する機会を広げられる 共有する相手や方法を検討できるか

上記はあくまで一例です。課題の発生頻度、影響を受ける人数、改善によって減らせる時間に加え、必要な費用や体制を踏まえて判断しましょう。

ステップ3:小さな範囲から導入し、運用方法を検証する

取り組む課題を決めたら、まずは対象となる研究プロジェクトや実験・解析工程を限定して試行します。

例えば、1つのプロジェクトだけで保存ルールを運用する、毎週の定型解析だけを自動化する、といった進め方です。

試行中は、次のポイントを確認します。

  • 作業時間や手戻りが減ったか
  • 解析手順やデータの来歴を確認できるか
  • 担当者以外でも同じ条件で再現できるか

研究の進め方やデータの特性に合わない部分があれば、保存ルールや解析手順、利用するツールを見直しましょう。

小さな範囲で改善を繰り返してから研究ラボや組織全体に展開すると、研究室・組織全体へ展開しやすくなります。

必要に応じて外部の専門家を活用する

研究DXのなかでも、保存ルールの見直しや既存ツールの設定は内製しやすい一方、解析環境の刷新やデータベース構築、AIを用いた自動化、研究成果の発信設計には専門的な知識が必要になることがあります。

こうした課題に対して、研究室内だけでは対応に必要な時間や人材を確保しにくい場合は、外部支援を活用することも選択肢の一つです。特に、研究内容を踏まえた設計が必要な場合や、一時的に専門的な技術・知見が必要な場合は、外部の専門家に相談すると進めやすくなります。

ResearchDXでは、研究の状況や課題に応じて、現役研究者とエンジニアが必要な範囲から伴走します。サービス内容について、詳しくはこちらのページをご覧ください。

関連サービスResearchDX|研究者の研究環境を向上させる研究支援サービスデータ解析や環境構築に時間を奪われ、仮説の構築や検証に十分な時間を確保できていないとお悩みではありませんか。ResearchDXは、現役研究者とエンジニアが、研究データのデータベース化から解析環境の刷新、解析業務の自動化、研究成果の発信までを必要な範囲で支援するサービスです。文部科学省の研究支援サービス・パートナーシップ認定制度(A-PRAS)認定サービスです。lp.araya.org

まとめ:まずは研究現場の課題を整理し、研究DXの第一歩を踏み出そう

  • 研究DXは、AIやツールの導入だけでなく、データ管理、解析、共有、発信を含む研究プロセス全体を改善する取り組み
  • 研究時間の不足、研究データの適切な管理・公開、AI for Scienceの進展を背景に、研究DXの重要性が高まっている
  • 最初は現場で最も時間のかかる業務を特定し、効果と負荷を比べながら小さく試すことが重要

研究DXでデータや解析環境を整え、研究成果を共有・発信しやすくなると、研究の再現性や共同研究の進めやすさも高まります。自組織の課題に合った方法を選び、必要に応じて専門家の支援を活用することも選択肢の一つです。

まずは、研究室や組織の中で最も時間がかかっている業務を1つ書き出してみましょう。その業務のどこに時間がかかっているのかを整理すると、研究DXを始めるべき課題を特定できます。

arayainc
執筆監修

株式会社アラヤ

先端AIとニューロテックを基盤とするディープテックベンチャーです。ムーンショット型研究開発への参画をはじめ、企業・大学との共同研究実績を多数有し、現役研究者とエンジニアが一体となった研究支援を提供しています。大学・研究機関における持続可能な研究体制の構築と研究力強化に貢献してまいります。

主な事業概要
AIアルゴリズム開発(ディープラーニング・エッジAI・自律AI)、建設DXソリューション、研究現場の業務効率化支援(Research DX)など、基礎研究から社会実装まで一貫して手がけています。