研究開発のデジタル化で何が変わる?導入ステップや事例も解説

コラム 2026.05.19

研究開発の現場では、技術テーマそのものだけでなく、データ管理や情報共有、申請対応など周辺業務にも多くの時間がかかりやすいものです。特に、研究データの散在や属人化、周辺業務の負担増加は、多くの現場で共通する課題です。

こうした課題の解決策として注目されているのが、研究開発のデジタル化です。大規模なシステム導入だけでなく、身近な業務を整理し、データや仕組みで回る状態へ変えていくこともデジタル化に含まれます。

本記事では、研究開発のデジタル化で何が変わるのかを整理した上で、デジタル化できる業務や進め方、実際の事例を解説します。

研究開発のデジタル化とは、
研究業務をデータと仕組みで整えること

研究開発のデジタル化とは、研究テーマそのものを変えることではなく、研究を支える業務や情報管理を、データと仕組みで回る状態へ整える取り組みです。

一般的なDXは、企業全体の変革や新たな価値創出まで含む広い概念として使われます。一方、研究開発のデジタル化は、現場改善や研究基盤整備の意味合いが強い点が特徴です。

例えば、

  • 研究データの保存方法を統一する
  • 進捗状況を見える化する
  • 紙の記録を電子化する

といった施策が該当します。

研究現場によくある課題

研究現場では、次のような課題が起こりやすい傾向があります。

  • データが複数の保存先に散在している
  • 紙の記録しか残っていない
  • 担当者しか分からない運用になっている

その結果、必要な情報を探す時間が増えたり、担当交代時の引き継ぎに手間がかかったり、過去データを再利用しにくくなったりします。

こうした状況を改善し、研究者が研究に集中しやすい環境を整えることがデジタル化の目的です。

研究開発の中でデジタル化できる業務5選

研究開発のデジタル化は、大掛かりな設備投資から始める必要はありません。まずは日々の業務の中で、時間がかかっている作業や属人化しやすい業務から着手するのが現実的です。

ここでは、優先して見直しやすい5つの業務を紹介します。

研究データの管理

研究データの管理は、優先してデジタル化しやすい業務の一つです。保存先が分散していると、必要なデータを探すだけで時間がかかり、再利用や共有もしにくくなります。

例えば、個人PC、共有フォルダ、外付けHDDに同じテーマのデータが散らばっていると、最新版がどれか分からなくなることがあります。こうした状態を防ぐには、保存先の統一、命名ルールの整備、検索しやすいフォルダ設計が重要です。

大学の研究室でも、学生ごとに保存ルールが異なり、引き継ぎ時にデータ所在が分からなくなるケースは少なくありません。共同研究先とのデータ共有に備え、管理体制の整備は重要です。

実験記録・研究ノートの記入

実験記録・研究ノートは、検索性・共有性を高める上で有効です。紙中心の運用では、過去条件の確認や複数人での共同閲覧に時間がかかりやすくなります。

数か月前の実験条件を確認したいときに、ノートを何冊もめくって探す場面は珍しくありません。必要な情報が見つかるまでに時間がかかれば、研究の流れも止まりやすくなります。

電子実験ノートであれば、キーワード検索や履歴管理、共同閲覧の効率化を図れます。記録は保存するだけでなく、後から検索・確認・共有できる状態で管理することが重要です。

解析業務・コード管理

解析手順やコード管理の整備は、同じ条件で解析を再実行しやすくする上で重要です。担当者ごとに管理方法が異なると、引き継ぎが難しくなります。

例えば、学生が卒業したあとに、解析コードの実行方法や修正履歴が分からず、同じ解析を再現できないことがあります。また、企業でも、担当異動により過去環境の再構築に時間がかかるケースは珍しくありません。

こうした問題を防ぐには、解析コードの保存場所や命名ルールを統一し、実行手順や変更履歴を残すことが重要です。Gitなどの版管理ツールを活用すれば、誰が・いつ・どのようにコードを変更したかを確認しやすくなります。研究室や部門全体で再利用しやすい資産として残せる点もメリットです。

進捗管理・タスク管理

複数の研究テーマを並行して進める現場では、進捗や担当状況を可視化することが重要です。口頭共有だけでは、遅延や業務負荷の偏り、優先順位の変化を把握しにくくなります。

例えば、複数の開発テーマが同時進行している場合、特定の担当者に業務が集中していても、一覧化されていなければ管理者が気づきにくいことがあります。大学研究室でも、学生ごとの進行状況や対応期限が見えにくく、フォローの遅れにつながるケースがあります。

タスク管理ツールや一覧表で担当者・期限・進行状況を整理すれば、管理者が状況を把握しやすくなります。負荷調整や優先順位を見直しやすくなり、研究開発プロセスの停滞防止にもつながるでしょう。

申請・報告・会議業務

申請・報告・会議業務は、テンプレート化や自動化によって効率化しやすい領域です。申請書作成、報告資料の作成、議事録対応などの周辺業務は、研究時間を圧迫する要因になりやすいためです。

例えば、同じ内容を複数の様式へ転記したり、会議のたびに資料をゼロから作成したりする作業は、担当者の負担につながります。企業では社内承認や報告業務、大学では科研費申請や学内手続きなどが該当します。

テンプレートの整備、議事録作成の自動化、承認フローの見直しを進めることで、周辺業務の負担を軽減できます。その結果、研究者や担当者が本来の研究開発業務に時間を使いやすくなります。

研究開発においてデジタル化を進める4ステップ

研究開発のデジタル化を推進するには、ツールを導入するだけでは定着しません。現場に合った順序で進めることが重要です。

ここでは、4つのステップに分けて進め方を解説します。

ステップ1:現場業務を棚卸しする

まずは、現場業務を棚卸しし、課題を洗い出しましょう。課題が明確でないまま導入すると、現場に定着せず、十分な導入効果を得にくくなります。

探し物に時間がかかる業務や二重入力している作業、担当者しか分からない業務などを書き出してみてください。時間が失われている業務を可視化すると、改善対象が明確になります。

ステップ2:効果が出やすい業務を選ぶ

次に、最初に取り組む業務を選びます。最初から全体最適を狙うと現場負担が大きくなりやすいため、効果が見えやすく、関係者の負担が少ない業務から選ぶのが重要です。

例えば、共有フォルダの整理や議事録の効率化、命名ルールの統一などは着手しやすい施策です。短期間で変化を確認しやすいため、最初の施策として検討しやすいでしょう。

まずは小さく始められる業務を選び、運用設計へ進むことが重要です。

ステップ3:ルールと運用体制を決めて小さく始める

デジタル化は、ルールと運用体制を決めた上で小さく始めることが重要です。運用ルールが曖昧なまま進めると、形骸化しやすくなります。

入力者や更新頻度が決まっていない場合、情報が更新されず、内容が古くなってしまう可能性があります。例えば、共有フォルダを作ったものの、誰も最新データを更新しない状態では意味がありません。

そのため、誰が、いつ、どこまで管理するかを決めてから試験的に導入することが大切です。運用しながら改善し、現場に合う形へ調整していきましょう。

ステップ4:定着後に業務改善範囲を広げる

デジタル化が定着したら、次の業務へ横展開します。一部業務の改善だけで止めると、効果が限定的になりやすいためです。

例えば、データ管理が整った後に、報告業務の効率化や進捗管理の見える化へ広げる流れが考えられます。整理されたデータは、将来的にAI活用や分析高度化の基盤にもなります。

まずは効果を検証しやすい業務から取り組み、運用基盤を整えたうえで、対象範囲を段階的に拡大していく進め方が現実的です。

研究開発におけるデジタル化の事例2選

研究開発のデジタル化は、業務効率化や情報活用の高度化につながりやすい取り組みです。

ここでは、研究現場で発生しやすい「情報探索の負担」「手作業による解析工数」に対して、アラヤが支援したデジタル化事例を紹介します。

事例1:散在データを統合し、検索環境を整備

データ統合は、研究開発における情報探索の効率化につながります。アラヤでは、論文データや公開データを統合し、研究に必要な情報を横断的に検索できる環境づくりを支援した事例があります。

複数の情報源を一元的に扱えるようにすることで、必要な情報へ素早くアクセスしやすくなり、情報探索にかかる負担の軽減が期待できます。研究室内の過去データ整理や、部門横断での情報共有にも応用しやすい考え方です。

まずは散在しているデータや情報資産を整理し、後から活用しやすい状態に整えることが重要です。

事例2:画像解析を自動化し、実験プロセスを効率化

画像解析のように手作業が多い工程は、デジタル化による効率化を期待しやすい領域です。アラヤでは、画像解析技術を用いたAI動物行動解析プラットフォームを新規開発し、従来手作業で行っていた解析業務を自動化した事例があります。

これにより、実験プロセスの高速化や解析の再現性向上につながりました。加えて、作業工数の削減やコスト最適化も期待できるため、繰り返し発生する解析業務はデジタル化の効果が出やすい領域といえます。

まとめ:研究開発のデジタル化は、
身近な業務改善から始めよう

  • 研究開発のデジタル化は、研究を支える業務や情報管理を整え、研究に集中しやすい環境をつくる取り組み
  • データ管理や記録方法、進捗管理、周辺業務など、身近な領域から着手できる
  • 一度に変えようとせず、小さく始めて定着させながら段階的に広げることが重要

研究開発のデジタル化は、単に紙の情報を電子化するだけではありません。データの扱い方や業務の進め方を見直し、必要な情報を探しやすく、引き継ぎや再利用がしやすい状態に整えることが重要です。

まずは、データ管理や情報共有など着手しやすい業務から見直してみましょう。小さな改善の積み重ねが、研究に集中できる環境づくりにつながります。

arayainc
執筆監修

株式会社アラヤ

先端AIとニューロテックを基盤とするディープテックベンチャーです。ムーンショット型研究開発への参画をはじめ、企業・大学との共同研究実績を多数有し、現役研究者とエンジニアが一体となった研究支援を提供しています。大学・研究機関における持続可能な研究体制の構築と研究力強化に貢献してまいります。

主な事業概要
AIアルゴリズム開発(ディープラーニング・エッジAI・自律AI)、建設DXソリューション、研究現場の業務効率化支援(Research DX)など、基礎研究から社会実装まで一貫して手がけています。