研究データをクラウドで管理するには?保存先の選び方と運用ポイントを解説

研究データが研究室のPCや外付けHDD、個人のクラウドに分散し、「最新版がわからない」「卒業する学生のデータを引き継げない」と困っていませんか。
クラウドを使ったデータ管理は、研究データの適切な保存や共同研究者との共有に役立つ選択肢です。ただし、ファイルを移すだけでは、整理やバックアップ、権限管理の課題は解消できません。
この記事では、研究データのクラウド管理とは何かを整理した上で、変わることやクラウドの選び方、データ管理を始める4ステップを解説します。
研究データのクラウド管理とは?

研究データのクラウド管理とは、インターネット経由で利用できる保存領域などを使い、データの保存・整理・共有をおこなうことです。この保存領域を提供するサービスを「クラウドストレージ」と呼びます。
クラウドストレージを含め、研究データの代表的な保存場所には次の4種類があります。
| 保存場所 | 主な特徴 | 管理上の注意点 |
|---|---|---|
| デスクトップ・モバイルPC | 実験や解析に使う端末へ直接保存できる | 故障や紛失に備え、唯一の保存先にしない |
| 外部記憶デバイス | 外付けHDDやUSBメモリなどに保存できる | 故障に加え、持ち運び中の紛失・盗難にも注意する |
| クラウドストレージ | インターネット経由で保存領域を利用できる | 所属機関の利用条件や共有設定を確認する |
| ネットワークドライブ | 学内などのネットワークを通じて共通の保存領域を使える | 接続できる場所や容量、バックアップの有無を確認する |
保存先は、使いやすさだけでなく、容量や費用、信頼性、安全性を踏まえて選びます。
なお、クラウドストレージには、Google Drive・Dropbox・OneDriveなどの汎用サービスがあります。加えて、大学や研究機関を通じて利用する、研究データ管理基盤も選択肢です。
研究データの管理・共有を支援する「GakuNin RDM」
国立情報学研究所(NII)の「GakuNin RDM」は、研究プロジェクトのデータや関連資料を管理・共有するサービスです。単なる保存領域ではなく、外部のクラウドストレージなどと連携できる管理基盤で、次の機能を備えています。
| 機能 | 研究データ管理での役割 |
|---|---|
| バージョン管理 | ファイルの変更履歴や過去の版を確認する |
| 証跡管理 | 第三者機関である時刻認証事業者のタイムスタンプを使い、データがある時刻に存在したことを証明する |
| アクセス権限の管理 | メンバーごとに閲覧・編集・管理などの操作範囲を設定する |
なお、接続するストレージによっては、GakuNin RDM上でバージョン管理を利用できない場合があります。
また、研究室でデータを管理し続けるには、管理者権限の引き継ぎも必要です。GakuNin RDMでは、管理者が機関を離れる前に、別のメンバーへ管理者権限を付与しておく必要があります。
参考:国立情報学研究所(NII)「GakuNin RDM(研究データ管理基盤)」
GakuNin RDM「Q&A集」
どの保存先を使う場合も、データの整理、バックアップ、セキュリティ、共有範囲を決めて初めて、継続的な管理につながります。
研究データをクラウドで管理すると何が変わるのか
クラウドを利用すると、特定のPCや外付けHDDに依存せず、研究データへアクセスしやすくなります。個人の端末にデータが分散している状態と比べると、主に次の点が変わります。
| 項目 | 個人の端末などに分散している状態 | 共通のクラウドを利用する状態 |
|---|---|---|
| 保存場所 | 各自のPCや外付けHDDに分かれる | プロジェクトの共通の保存先を決められる |
| アクセス方法 | 保存した端末の操作や機器の受け渡しが必要になる | 許可された端末からインターネット経由でアクセスできる |
| 共同利用 | コピーの受け渡しで、どれが最新版か迷いやすい | 共有先の同じファイルを参照しやすい |
例えば、実験担当の学生と解析担当の研究者が共通の保存先を使えば、ファイルの受け渡し先をそろえられます。共有・同期・共同編集などに対応したサービスでは、複数人での作業も進めやすくなるでしょう。ただし、これらの機能はサービスやファイル形式によって異なります。
一方、全員が自由な名前でファイルを保存すれば、クラウド上で必要なデータを探しにくくなります。フォルダ構造やファイル名をそろえ、実験条件などの説明を残すことで、本人や共同研究者が後からデータを探し、活用しやすくなります。
研究データを管理するクラウドの選び方

研究データを管理するクラウドは、ファイルを保存する際の使いやすさに加え、研究終了後の保存やメンバー交代まで見据えて比較しましょう。
ここでは、クラウドを選ぶうえでの6つのポイントを解説します。
データ量に合う保存容量があるか
保存容量は、現在のデータ量と研究期間中の増加分を合わせて判断します。研究で扱うファイルの種類によって、必要な容量は変わるためです。
例えば、測定値の表だけを扱う研究と、高解像度の画像や動画を継続的に取得する研究では、保存容量の見積もりが異なります。生データに加え、加工後のデータや解析結果も保存するなら、その分も含める必要があります。
まずは、データの種類・ファイル形式・現在の容量を書き出しましょう。そのうえで、実験の回数や取得頻度から増加量を見積もると、候補を比較しやすくなります。
必要な期間の費用を負担できるか
クラウドの費用は、月額料金だけでなく、必要な保存期間を通じて負担できるかを確認します。研究終了後も保持するデータがあれば、その後の保存先と費用も考える必要があります。
例えば、研究費で契約する場合は、研究費の支出が終わった後に誰が費用を負担するのかを決めましょう。所属機関の保存先へ移す予定なら、移行できる容量や作業期間も確認が必要です。
クラウドを使ったデータ管理を計画する際は、長期保存を前提とした費用の検討が重要です。
保存・同期・共有をしやすいか
研究データをクラウドで管理する場合は、研究室のメンバーや共同研究者が、普段使う端末から無理なく利用できるかを確認しましょう。保存の手間が大きいと、個人のPCにデータが残り、再び分散するおそれがあります。
例えば、実験用PCからアップロードできるか、学外の共同研究者を共有先へ招待できるかを確認します。同期機能を使う場合は、クラウドのどのフォルダが各端末へ同期されるのかも把握しておきましょう。
また、ファイルを共有できることと、複数人が同時に編集できることは異なります。解析用ファイルなどを共同で更新するなら、編集の競合を防ぐ方法も確認が必要です。
候補のサービスで少量のデータを保存・共有し、実際の作業に合うか試すと判断しやすくなります。使いやすさと、次に解説する復元・安全性の条件を合わせて評価しましょう。
バックアップと復元の仕組みがあるか
バックアップは、研究データを適切に保存できるかだけでなく、必要なデータを復元できるかまで確認します。誤った上書きや削除が起きた際に、研究を再開できる状態へ戻すためです。
比較する際は、
- 変更履歴の保存期間
- 削除ファイルの復元可否
- 別の場所へのバックアップ方法
を確認しましょう。
例えば、GakuNin RDMの公式マニュアルでは、過去のバージョンをダウンロードする方法が案内されています。一方、削除したファイルは元に戻せないと記載されています。変更履歴があることと、削除後に復元できることは分けて確認する必要があります。
また、同期は複数の場所へ変更を反映する仕組みです。誤削除も反映される場合があるため、それだけでバックアップの代わりになるとは限りません。実際にファイルを復元する確認までおこないましょう。
所属機関が求める安全性を満たせるか
外部のクラウドを利用する前に、所属機関のセキュリティポリシーやガイドラインに適合するかを確認します。使い慣れたサービスでも、保存するデータによって利用条件が変わるためです。
所属機関がネットワークドライブやクラウドを提供している場合は、まずその利用条件を調べましょう。
安全性を判断するうえで、最低限次の項目を確認してください。
- アカウント認証
- 端末のセキュリティ対策
- 通信・保存時の暗号化
- アクセス制限 など
「クラウドなら安全」と一括りにせず、保存するデータと所属機関の要件に合う環境を選びましょう。
引き継ぎ・権限移管がしやすいか
研究データを保管するクラウドを選ぶ際は、学生の卒業や研究者の異動後も使い続けられるよう、データと管理権限の引き継ぎ方法を確認します。ファイルが残っていても、管理する人がいなければ、共有相手の変更などができなくなるためです。
例えば、学生個人がオーナーとなっている場合は、アカウントが削除される前に、研究室や後任者へ移管できる状態にしておきます。
サービスによっては、引き継ぎ手順が明確に定められている場合があります。管理者が不在になると、メンバーの追加・削除や権限変更などができないケースもあるため、事前の確認が必要です。
クラウドの候補を比較する際は、引き継ぎ手順に加え、後任者が実際にデータを開き、管理操作をおこなえるかまで確認しましょう。
研究データのクラウド管理を始める4ステップ

ここでは、大阪大学が解説する「研究データの取得・収集」「保存」「共有」の流れをもとに、クラウド管理の導入作業を4ステップで整理します。研究室のデータを一度に移すのではなく、まず1つのプロジェクトから取り組みましょう。
ステップ1:データの種類・ファイル形式・容量を把握する
最初に、管理するデータの種類・ファイル形式・容量を整理します。その情報をもとに、必要な保存容量を見積もります。保存期間は、所属機関の規程や共同研究契約なども確認して決めましょう。
例えば、次のような一覧を作成します。
《記入項目の例》
| データの種類 | ファイル形式 | 現在の容量 | 今後の増加見込み |
|---|---|---|---|
| 測定結果 | CSV・装置固有形式など | 実測して記入 | 測定回数をもとに見積もる |
| 実験画像 | TIFF・JPEGなど | 実測して記入 | 撮影枚数をもとに見積もる |
| 解析結果 | CSV・解析ソフト固有形式など | 実測して記入 | 解析条件や出力数から見積もる |
既存のデータを利用する場合は、入手元や利用条件も記録します。長期間保存するデータについては、将来もファイルを開けるか、専用ソフトが必要かを確認しましょう。
形式を変換する場合は、必要な情報が失われないかを確認し、長期保存に適した形式を検討しましょう。
ステップ2:フォルダ構造・ファイル名・バージョンのルールを決める
次に、プロジェクト内で共通して使う整理ルールを決めます。本人しか保存場所や最新版を把握できない状態を防ぐためです。
例えば、プロジェクトのフォルダ内を
- 生データ
- 加工データ
- 解析結果
- 説明資料
のように分ける方法があります。ファイル名も、内容・作成日・作成者・バージョンを同じ順序で記載すると識別しやすくなります。
命名例は、「試料A_測定結果_20260913_Tanaka_v01.csv」などです。更新版は「v02」とし、何を変更したかも記録します。「最新版」「最終版」だけでは区別しにくいため、日付や番号の使い方を統一しましょう。
決めたルールは、保存先の案内文書にまとめます。共同研究者や新しく参加する学生も、同じ方法で保存できる状態にしておくことが大切です。
ステップ3:保存場所を決めてバックアップを取る
データ量や費用、使いやすさ、信頼性、安全性を比較し、通常時に使う保存先とバックアップ先を決めます。クラウドを選ぶ場合も、所属機関の利用条件に適合することが前提です。
例えば、日々の共同作業に使う保存先と、誤操作に備えてコピーを保管する場所を分けます。誤って上書き・削除した場合にも備え、変更前のデータを復元できる方法でバックアップを取りましょう。
さらに、データの更新頻度に応じて、バックアップの頻度と担当者を決めます。バックアップソフトなどを利用し、定期的に保存されていることも確認しましょう。
設定後は、バックアップからファイルを取り出し、開けるかを確認してください。保存作業と復元確認をセットにして、運用を始めましょう。
ステップ4:共有するデータとアクセス範囲を決める
最後に、共有するデータと相手を決め、必要な範囲のアクセス権限を設定します。共有する必要のないデータは、共有対象から外して保管しましょう。
共有前には、そのデータを共有してよいか、入手元の利用条件や共同研究上の取り決めを確認します。例えば、結果の確認だけをおこなう人には閲覧権限、解析結果を追加する人には編集に必要な権限を設定します。
また、研究室や共同研究者への限定共有と、一般への公開は区別し、それぞれの対象に応じてアクセス範囲を決めましょう。
卒業・異動・共同研究終了が決まったら、データと管理権限の引き継ぎ先をあらかじめ決めます。後任者が必要なデータを利用・管理できることを確認したうえで、不要になったアクセス権を見直しましょう。
参考:大阪大学オープンサイエンス推進室「研究データを取得・収集および保存・共有する」
GakuNin RDM公式Q&A「データ移行・利用終了」
まとめ|研究データを管理するクラウドは保存・共有の条件を確認して選ぼう
- 研究データの保存先にはPC・外部記憶デバイス・クラウド・ネットワークドライブがある
- クラウドは容量・費用・使いやすさ・復元の仕組み・安全性に加え、卒業や異動時の引き継ぎやすさを比較して選ぶことが重要
- 保存先の選定とともに、整理ルール・バックアップ・共有範囲・管理権限の引き継ぎまで整えることがポイント
研究データの管理にクラウドを使う際は、データ量や保存期間、共同研究者との共有条件を確認し、研究室に合うものを選びましょう。保存先が決まったら、メンバーが迷わずデータを保存・利用できるよう、整理やバックアップ、権限の引き継ぎに関する共通ルールを決めることが大切です。
まずは、現在進めている研究プロジェクトを1つ選び、保存しているデータの種類・ファイル形式・容量を書き出してみましょう。 管理するデータの全体像がわかれば、研究室に必要な保存先の条件を具体化できます。
株式会社アラヤ
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