RAGとLLMの違いとは?非エンジニアでもわかるAI活用の仕組み

コラム 2025.11.06

生成AIの活用が進む中、「LLM」や「RAG」という言葉を耳にする機会が増えました。とはいえ、両者の違いや、業務での使い分けは意外とわかりにくいものです。もし社内のFAQや最新情報をAIで活用できたら、業務効率が大きく向上します。その実現を支えるのが、RAG(検索拡張生成)という技術です。

この記事では、LLMとRAGの基本的な仕組みや違い、活用事例、導入ステップまでを非エンジニア向けにわかりやすく解説します。AI活用を検討している方が、導入判断できるレベルまで理解を深められる内容です。

LLMとRAGの基本的な違い|仕組みと特徴を解説

AI活用を考えるうえで、まずはLLMとRAGの違いと、それぞれのメリットを理解することが重要です。両者は似ているようで、根本的な仕組みが異なります。

LLMとは

LLM(Large Language Model)は、大量のテキストデータを学習したAIモデルです。質問に対して、学習済みの知識をもとに文章を生成します。

例えば「AIとは何か?」と聞くと、LLMは過去に学習した情報をもとに回答します。自己完結型であるため、外部情報を参照することはありません。
そのため、創造的な文章生成や一般知識の回答には強い一方で、最新情報や社内データには対応できないという課題があります。

RAGとは

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、LLMに「検索機能」を組み合わせた技術です。質問を受けると、まず外部データベースから関連情報を検索し、それをもとに文章を生成します。
例えば「2025年の労働人口は?」と聞いた場合、RAGは最新の統計データを検索し、それをもとに回答を生成します。これにより、情報の鮮度や正確性が向上します。

LLMとRAGの違い

LLMとRAGの最大の違いは、「情報源」と「回答の仕組み」にあります。
LLMは過去に学習した知識の範囲で回答を生成するのに対し、RAGはあらかじめ用意・更新したコーパス(社内文書や外部ソース)から検索して根拠を取り込んだ上で回答を生成します。
そのため、LLMは創造的なアイデアや一般的な説明に強く、RAGは最新情報や企業固有データを扱う場面に適しています。
用途によって「LLM単体で十分なケース」と「RAGを組み合わせることで精度が高まるケース」を見極めることが重要です。

RAGがLLMに補う課題|情報鮮度と社内活用

LLM単体では、以下のような課題が生じることがあります。

  • 学習時点の情報しか使えない(情報が古い)
  • 社内のFAQやマニュアルなど、独自データに対応できない
  • 誤回答のリスクがある(推測で答える)

RAGはこれらの課題を補う技術です。検索によって最新情報や社内データを取得し、それをもとに生成するため、より正確で業務に即した回答が可能になります。
例えば、社内の問い合わせ対応にRAGを導入すれば、FAQやマニュアルを検索して回答するため、担当者の負担を軽減できます。

RAGとLLMの活用シーン|業務での使い分け

それぞれの技術が得意とする領域は以下の通りです。

LLMが向いている業務

  • 一般知識の問い合わせ対応
  • 創造的な文章作成(広告文、キャッチコピーなど)
  • チャットボットによる雑談対応

RAGが向いている業務

  • 社内FAQの自動応答
  • 最新ニュースや法改正への対応
  • 専門情報(医療、法律、技術文書など)の検索と回答

導入判断の際は、「どの情報を使いたいか」「情報の鮮度が重要か」、
つまり「一般的な質問への対応で十分ならLLM」「データを使って正確に答えたいならRAG」などと考えるとわかりやすいでしょう。
まずはLLMで試し、精度やデータ連携の必要性が出てきた段階でRAGへの拡張を検討するのが現実的です。

RAGの導入事例を3つ紹介

RAGは、企業内のナレッジ活用を大きく変えつつあります。
ここでは、実際にRAGを導入した企業の活用事例を3つ紹介します。社内FAQの自動応答から契約書レビュー、製造現場でのトラブル対応まで、各分野でどのように業務効率化やリスク低減を実現しているのかを見ていきましょう。

事例1:総務部門で社内FAQを自動回答

従来、スタッフからの問い合わせ対応にはメールや電話を使い、回答までに数時間を要していました。
そこで大手企業では、RAGを導入し問い合わせ対応を自動化。社内規定や福利厚生などの情報を自動で検索し、正確な回答を即時に提示できるようになりました。
その結果、総務部門の負担が大幅に軽減され、業務効率も大きく向上しています。

事例2:法務部門での契約書レビュー

契約書のレビュー業務では、条文の確認やリスク判断に多くの時間がかかり、担当者の経験や知識に依存しがちです。特に過去契約との整合性確認や法改正への対応は、手作業では抜け漏れのリスクがあり、法務部門の大きな負担となっていました。
こうした課題を解消するため、法務部門では契約書の条文を確認する際にRAGを導入。社内の過去契約データや最新の法令を検索し、リスク箇所を指摘する仕組みを構築しました。その結果、レビュー時間を短縮し、法的リスクの見逃しを防止。特に海外取引における法改正対応で高い効果を発揮しています。

事例3:製造業でのトラブルシューティング

製造現場では、機械のトラブル対応が属人的になりやすく、原因特定や修理方針の判断に時間がかかることが課題でした。特にベテラン技術者の経験に依存するケースが多く、担当者の不在時には復旧が遅れるリスクもありました。
こうした課題を解消するため、RAGを導入。社内マニュアルや過去の修理履歴を自動で検索し、最適な対応策を即時に提示できる仕組みを構築しました。
これにより、熟練者の知識をAIで補完し、人材不足への対応とダウンタイムの大幅な削減を実現しています。

LLMとRAGの導入フロー

LLMやRAGを導入する際は、いきなり開発に着手するのではなく、目的を明確にしたうえで段階的に進めることが重要です。以下は、導入全体の流れと、特にRAGを導入する場合の具体的なステップを整理したものです。

導入フロー1:目的と課題の整理

まずは、「どの業務を自動化・効率化したいのか」を明確にします。
たとえば、社内文書から最適な情報を探したいのか(=RAG向き)、それとも文章の自動生成や要約を行いたいのか(=LLM向き)によって、採用すべき技術が異なります。
導入目的を明確にすることで、無駄のない設計が可能になります。

導入フロー2:データの準備と整備

続いて、AIが扱うデータを整えます。
RAGの場合は、社内マニュアル・FAQ・議事録などの検索対象データを収集・分類し、検索しやすい形式に整理します。

一方、LLM単体の場合は、プロンプト設計や回答トーンの最適化など、出力品質を高める工夫が中心になります。
この段階の整備精度が、後の回答品質を大きく左右します。

導入フロー3:モデル選定と環境構築

クラウド型かローカル型かを機密性・レイテンシ・運用体制・コストの観点で選定し、必要に応じてAPIや社内システムとの連携を行います。
特にRAGでは、検索エンジンとLLMの連携設定が重要です。
専用のベクトルDB(例:Milvus、Weaviate、pgvector等)や、ベクトル検索機能を備えた検索基盤(Elasticsearch/OpenSearch等)、ライブラリ(FAISS)を用途に応じて選択し、ユーザーの質問をもとに最適な文書を検索・生成する仕組みを構築します。

導入フロー4:テスト運用と精度評価

実際の業務データを使い、回答精度や関連度を検証します。
RAGでは、検索精度が低い場合はデータ整備やベクトル化手法の見直しを行い、生成結果に不自然さがある場合はプロンプト調整で改善します。
LLM単体の場合も同様に、回答の一貫性やトーンを評価し、ファインチューニングやプロンプト最適化をおこなうことで、より精度の高い応答を実現します。

導入フロー5:本格運用と継続的改善

運用開始後は、ユーザーの質問ログや利用状況を分析し、定期的に改善を行います。
RAGでは、最新の社内情報を反映するためにデータベースを更新し続けることがポイントです。
LLMの場合は、回答テンプレートやプロンプト設計を継続的にチューニングすることで、精度と実用性を維持します。

このように、LLMとRAGの導入は共通するステップを踏みながらも、RAGはデータと検索設計の最適化、LLMは生成品質の向上が鍵となります。

どちらを導入すべきかの判断基準

LLMとRAGのどちらを導入すべきかは、「求める回答の性質」と「扱う情報の種類」によって判断します。

LLMが向いているケース

  • 一般的な知識や会話が中心の業務
  • 新しい文章の生成や要約、アイデア提案が必要な場合
  • 社内データへの依存度が低い場合

RAGが向いているケース

  • 社内ドキュメントやFAQなど、特定データに基づいた回答が必要な場合
  • 最新情報や専門情報を扱う業務
  • 正確性や根拠提示が求められる場合

つまり、「創造・発想」を重視するならLLM、「正確・根拠付きの回答」を重視するならRAG が適しています。
多くの企業では、まずLLMで業務自動化を試し、必要に応じてRAGを組み合わせるハイブリッド構成を採用するケースが増えています。
最近では、これらを組み合わせたAIサービスも増えており、専門知識がなくても導入しやすい環境が整っています。

まとめ|RAGとLLMの違いを理解して業務に活かす

RAGとLLMは、それぞれ異なる強みを持つAI技術です。LLMは創造的な文章生成に、RAGは最新情報や社内データの活用に適しています。
導入を検討する際は、自社の課題や目的に応じて使い分けることが重要です。まずは「どの情報をAIに使わせたいか」を明確にし、RAGの導入を進めてみましょう。

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執筆監修

株式会社アラヤ

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